七草粥の具材は「春の七草」

歳時記

「もう売ってるわ」ショッピングセンターの入り口には数日前から「七草セット」が山積みにされていました。今どきの歳時記なのでしょう。

自然が豊かな岐阜の家の近くは、散歩していると七草のうち四種類は道端で見かけます。なんだか商品化されたパッケージを買う気にはなりません。かといって犬のお散歩コースになっているかもしれないところで採ってくるのも考えてしまいます。毎年、複雑な思いになります。

 

七草粥はそろそろおせちにも飽きてきて、正月のご馳走で胃も疲れ気味と言う時、絶妙のタイミングでやってくきます。

この日の朝に七草粥を食べると、その1年は病気にならないとされ、現代にも根強く残っている習慣です。

 

ただし、七草粥と健康を結びつけるのは、後から生まれた考え方で、もともと健康維持と無関係でした。

 

七草がゆは中国の古い風習が伝わったものです。中国では毎年、官吏(役人)の昇進を1月7日に決めていたことから、この日に薬草である若菜の入った汁物を食べて立身出世を願っていました。七草粥は必勝祈願の食べ物だったのです。

 

それが日本に伝えられ、平安時代の宮中で七種類の食用の草で作ったお粥を食べるようになりました。当時は五穀豊穣を祈って食べていましたから、やはり健康の維持とは無関係でした。

 

君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ

あなたにさしあげるため、春の野原に出かけて若菜を摘んでいる私の着物の袖に雪が降り続いている。

百人一首に読まれている「若菜」とは特定の植物の名前ではなく、春に生えてきた食用や薬用になる草、いわゆる春の七草のことです。初春の「若菜摘み」も慣例的な行事でした。

 

写真:三重県薬剤師協会さんより

 

春の七草はせり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、スズナ、すずしろ(大根)

です。平安時代に若菜と呼んだのも、これらの草だったようです。

どの薬にもそれぞれ薬効があります。

 

せりには鉄分、ハコベラにはタンパク質、スズナ、すずしろが消化を助けるジアスターゼが豊富に含まれています。ごうぎょう、ほとけのざには、血圧を抑える働きがあります。

 

栄養学的に見れば「七草粥を食べると病気をしない」と言う言い伝えは正しいものです。

 

そして、それぞれの食材の持つ意味もあるようです。

せり=競り勝つ…

なずな=撫でて汚れを除く

ごぎょう=仏体

はこべら=反映がはびこる

仏の座=仏の安座

すずな=神を呼ぶ鈴

すずしろ=汚れのない清白

行事には、人が健やかに生きていける生活の知恵がいっぱいです。繊細であたたかい思いが込められてます。

 

はこべら(はこべ)は先日の雪の下になって茶色になっていました。蕾を持っていたのにね。

 

運動もしないで味付けの濃い保存食ばかり食べて過ごすお正月は、消化不良を起こしやすいので、その時期に薬膳料理とも言える七草粥を食べて胃を休めるのは合理的です。

七草と健康と謂れを結びつける考え方も、そんな先人の知恵の知恵ですね。

 

 

それにしても、私がショッピングで七草を買うのを躊躇するのは、「野で摘むもの」だという観念から抜け出せないからです。

なんでも手軽にお金で解決することに対する抵抗感なのでしょう。

たとえ四種類しか手に入らなくても「きみがため」に健康を祈りながら集める方を選ぶ生活をしたいと思うのです。

 

友人がプランターで春の七草を育てています。決して豪華ではないけど、可愛らしい花も咲きます。薬膳と考えれば、七草粥の日でなくても、胃が弱ったりしている時に摘んでおかゆを作るのも悪くないかと思いました。

 

 

 

七草を探して散歩していると、もう小さなお花が咲いていました。名前はわかりませんが。

「冬来りなば春遠からじ」

今日からまた雪が降るようです。一方で、春の足音もわずかに聞こえてきていいるようです。

 

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山本由紀子

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明治創業、岐阜の山本呉服店に生まれ着物に囲まれて育つ。大学時代を京都の親戚で過ごし金沢の呉服屋さんで勤め山本呉服店入社、代表取締役。雑誌商業界などで「売らず...

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