プロの目利き力☆絹100%もいろいろ
お見立て
「またか〜〜〜、」
父は時々、警察署から呼び出されて、鉄格子の入った取調室で調書を書かされていました。
たまたまその様子を見た近所の人から「山本さん、何やったんやー?」と声をかけられる始末!
まだ高度経済成長の頃でした。
京都の染屋と名乗る人が粗悪な着物を騙して売り歩くという事件が週に5、6件も起こりました。警察へ被害届けが出ても、そもそもいくら位の物がいくらで売りつけられたのか値踏みができないので、父がその度に警察署から呼び出されていたわけです。
正絹と言われて買ったのに、絹が1本も入っていないとか、
反物の初め1メートルほどだけ染めてあとは真っ白などという酷いものもありました。
京都西陣で叔父の会社で長年、仕入れ担当だった父の目利きは確かでした。
「絹と言っても色々や。絹紡糸(けんぼうし)は絶対売るなよ」
「うちは『正絹』しか使わないから高いよ」
先日、山本呉服店オリジナルの帯を作っていただくために初めて伺った西陣の機屋さんが二種類の糸を持ってきて言われました。
「こちらは正絹、こちらは絹、どちらも品質表示は100%」
「正絹」は「生糸(きいと)」から作られ、ツヤツヤ光っていてやわらかなのに弾力があり、握るとキシむような感覚がします。
蚕(かいこ)が作った繭の一番長い美しい繊維から作られます。
一方「絹」はもったりしていて艶がありません。いわゆる絹紡糸(けんぼうし)と言われる穴があいた繭や、一番外側の繭を固定している短い繊維から作られる2等品です。
本来は肌着や靴下などに使われます。
呉服屋は着物のことを総称して「正絹」という言葉を使うけれど、この差は歴然です。
着物や帯にも絹紡糸を使っているものもあります。
色も良く、デザインもおしゃれ、でも絹紡糸は着物も帯もシャキッとしません。
着物はツヤがなく張りもなく、どこか安っぽくオーラも出ません。
帯は結んでもシャンとせず、結び上がりがショボくなります。
こんな粗悪品、当店では売ってはいけない。
着る人の価値を下げるようなものは売りたくない。
プロの目で選んだ本当に品質の良いものだけを扱う、お客さまが安心して買える専門店でありたいと気持ちを引き締めました。
この記事へのコメントはありません。