彼岸花

歳時記

酷暑の中、よくぞ時を間違えずに咲いてくれたものだ。

暑さ寒さも彼岸まで。

その名の通り、季節を間違えずに咲くものだなあ。

 

 

「そんな花、家の中に持って来ちゃだめ。早く捨ててきなさい。家が火事になる!」

こんなに美しい花はないと思って、持って帰ってきたのに、一瞬にして毒々しい悪魔の花に変わった。

優しいはずの祖母に 突然叱られたショックは今も覚えている。

 

 

よく考えてみると、子供心にも何か変だぞ?と思った。

こんなに美しいのに誰も手をつけない、

毒性を持つことから子供がむやみに花に近づかないようどこの家庭でも戒めたのだろう。

 

よく見ると、花だけ咲いて葉っぱがない、やっぱりおかしい。

葉っぱは真冬に、他の草がみんな枯れてしまったときに出てくるのを知ったのはだいぶん後のお話。

細長い濃い緑の葉っぱだけが地面に張り付くようにして元気に伸びるのだ。

それも悪魔の仕業に思えた。

 

白い彼岸花も

 

彼岸花が「死者の花」と言われたのは、土葬の時代に野生の獣に墓を荒らさせないために球根に毒性を持つ彼岸花を植えられたからと言われている田んぼのあぜ道に穴をあけるモグラを寄せ付けないためにも植えたのだとか。

死者の花が田んぼの縁取りをするように真っ赤に誇らしげに咲くこの季節が嫌いだった。そんな写真がプロのカメラマンによって里山の原風景としてもてはやされるのも嫌だった。

 

 

「彼岸花は謎の多い花でどうやって増えるのか研究してもわからない」と高校の生物の先生が言った。

球根から増えるのは分かっているけれど、種も胞子もないのに遠いところで咲くメカニズムが解明されていないと。

 

 

最近では人間が植えたことによって、彼岸花は広く咲かしていたのだった。

あまりにも暑かった夏。

季節を間違えずに咲く彼岸花を少しだけいとおしく、少しだけ同士のような気持ちになった。

 

 

 

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山本由紀子

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明治創業、岐阜の山本呉服店に生まれ着物に囲まれて育つ。大学時代を京都の親戚で過ごし金沢の呉服屋さんで勤め山本呉服店入社、代表取締役。雑誌商業界などで「売らず...

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