谷崎潤一郎の随筆「陰影礼讃」の世界、今も☆「品格の教科書」P137「変えてはいけないもの」を決めることが「生き方」を決めるのです。
「美しいーーー!!!」
何十年も見慣れた景色なのに、思わずシャッターを切りました。
築180年以上、
祖父に聞いてもいつ建てたのか不詳の座敷の雪見障子からの眺めです。
谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の世界そのものです。
「もし日本の座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数奇を凝らした日本の座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰影の秘密を理解し、光と蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。」(陰影礼讃より)
雪見障子が上げてあるところは、障子が二重になって濃い色になっているのにも魅せられます。
谷崎は薄暗い明かりに照らし出される処にこそ日本の伝統美があると言っています。
「美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを餘儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に沿うように陰翳を利用するに至った」(陰影礼讃より)
日常の光はさらに明るさを増し、影はその存在を潜めています。
しかし、当家は未だに大正時代そのものなのだな〜と一人苦笑していました。
実は父が京都から帰り、店だけでは売り場が足りなくなったため、この座敷も使って着物の展示会をしたのです。
空調をつけることはおろか、
柱の裏に電線を這わせることも
父が梁や画鋲を打つことさえ、
祖父は嫌いました。
祖父の言葉を聞いていた母がそのまま残したのです。
何100年も経てば木造の家は傾き、建具には隙間ができます。
直さなければどんどん傾き、取り返しがつかなくなります。
見えないように治し続けてきたのが母だったのです。
「どれだけお金をかけて直しても甲斐がないわ」
と良くため息をついていたものです。
雪見硝子には歪みがあります。
歪みは当時のガラスの製造過程によるものです。
当時の町工場などでは『手吹円筒法』と呼ばれるイギリス式のガラスの製造方法が主流でした。
熱せられたガラスを高温の中で、人が吹き竿で円筒状に吹き膨らませます。
そうそう、観光地などで口で吹いてグラスや花瓶を作る体験でやるあのやり方です。
吹いても拭いても頑として膨らまないことはやってみた人なら分かります。
膨らませた硝子を冷まして、縦に切って再び熱して板状に広げるという製法は
重労働、かつ熟練者でないとできない過酷な仕事でした。
その硝子の歪みの優しさや風情も、今なら素敵だと思えます。
「大きくなったら四角い家に住むのだ!!」
小さい頃はマンションのような機密性の高い暖かい家に住むのが夢でした。
ジンジンと底冷えする厳寒の冬を感じながら、
不思議と気持ちが落ち着く空間が180年以上も守られてきたことに今は感謝するのです。
一度壊してしまったらもう取り戻すことはできないのですから。
「品格の教科書」は全国の書店さん、
またはアマゾンで手に入ります。
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