「一見さんお断り」の作法

「品格の教科書」に載らなかった話

「チップ」と「心付け」は似ていても非なるものです。

 

京都のおばあさんは学生の私を料亭へよく連れて行ってくれました。

目的は2つ

・そういった場所に私を慣れさせるため、

・おいしいものを食べさせて口を肥やすため、

女の子は口を肥やしておけば自分で作る様になるから料理学校なんて行かなくていいのといつも言っていました。

 

 

そのころはまだ、老舗料亭では「一見さんお断り」初めての客はお断わりという習慣が色濃く残っていました。

常連客や紹介者を大切にし信頼関係を築くことを重視していました。それはお店の格式や伝統をも表していました。どちらにせよ、私にとっては敷居が高く緊張する場所でした。

 

きちんと見えるワンピースやスーツを着て、おばあさんの後ろに隠れるようにガチガチになって付いて行きました。お祖母さんの会話に注意を払い、箸の上げ下げまで、最大限 真似しました。

 

おばあさんは、いつものようにゆったりと暖簾をくぐり、玄関で下足のおじさんと挨拶を交わします。続いてお迎えしてくださった中居さんと季節の挨拶をしたり、生けてあるお花を話題にしたりして、和やかにお部屋へ向かいます。

部屋で一息付き、少し会話した後、

「お世話になります」とか「気持ちですが」とか短い言葉を添えて心付けを渡しました。

金額も多からず少なからず、渡すタイミングも自然で絶妙でした。

 

 

心付けに大金が包まれているのは成金的行為として決して良しとしていませんでした。

高い料理やお酒をバンバン注文してくれる客はありがたいのでしょうけど、大きな声を出したり偉そうに振る舞ったりする行為には顔を顰めていました。そういう客は最上級の客ではないのです。

 

 

美しく磨き上げられた建物、お花を飾り気持ちよく設えて迎えてくださるお店、

長く修行積み、素晴らしいお料理を作って下さる板さん、

絶妙のタイミングでお料理を提供してくださる中井さんの心遣いなど

全て熟練した素晴らしい仕事によって創り出される一回限りの至極の時間です。

客は美味しいものを食べるだけでなく、その心遣いを感謝と敬意をもって受け取って、良い時間を作り出すのだと思いました。

緊張し心細い思いもしましたが、お店の人に良い客と認めてもらいたくてお祖母さんの誘いには最優先で行きました。

 

 

「一見さん、お断り』は

それは他の客に迷惑をかけないため、今一時の儲けだけを追うことはしないという確たる姿勢が見えました。

 

 

いつ頃からか? 旅館も料亭でもサービス料が導入されました。

 

私はほっとしました。

向こうから言われる金額を払いさえすれば良い、

「良い客であろう」としなくて良くなった気がして、肩から力が抜けてとても楽になりました。

 

 

気を使わなくなった自分は横柄になったかも?

心付けを渡しているときはもっと謙虚だった気がします。

サービス料を払っている「客である」と言う意識が強くなったのでしょうか。

「一見さんお断り」は今更ながら 私にとって修行場だったと思うのです。

 

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山本由紀子

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明治創業、岐阜の山本呉服店に生まれ着物に囲まれて育つ。大学時代を京都の親戚で過ごし金沢の呉服屋さんで勤め山本呉服店入社、代表取締役。雑誌商業界などで「売らず...

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